2023年7月30日 発行(Orchestra Da Vinci 第9回演奏会) | 2023年10月28日 掲載

《フィガロの結婚》序曲

モーツァルト

中井 亮(トランペット)

モーツァルトはその生涯で多数の劇音楽を手がけた。そのうち現在よく知られている作品の大半は20歳以降に作曲されたもので、オペラ・ブッファ(喜劇)と呼ばれるジャンルに属する。《フィガロの結婚》はそのオペラ・ブッファにおける最高傑作の一つと見なされている。

《フィガロの結婚》は1786年、モーツァルトが30歳の年に初演された。台本は、フランスの劇作家ボーマルシェの喜劇『フィガロの結婚、または狂おしい一日』を原作としている。この喜劇は1748年にパリで初演され、貴族批判を含んでいたために上演禁止処分となった危険な作品であったが、オペラ台本への改作にあたり問題となりそうな箇所が削除されたことで、無事、上演許可が得られた。

主要な登場人物は、伯爵の従僕フィガロ、その婚約者である伯爵夫人の侍女スザンナ、伯爵、伯爵夫人である。物語は、強権を利用してスザンナを我がものにすべく計略を巡らせる伯爵と、それを阻止しようとするフィガロとの攻防を中心に展開し、周辺の登場人物たちを巻き込んだ様々なエピソードが重唱によって効果的に描写される。

楽曲構成

ソナタ形式。弦楽器群とファゴットによる弱音の序奏(譜例①)の後、第1主題が全管弦楽による快活な総奏で提示される(譜例②)。第2主題はヴァイオリンとファゴットによる(譜例③)。両主題は、強弱に加え、順次進行を基調とする第1主題と跳躍を多く含む第2主題という点でも好対照をなしている。

表情豊かに、終始長調かつ快速なテンポで進行する序曲は、ニ長調という祝祭的な調性も相まって、わずか4分の短さながらオペラ本編への期待をかき立てるには十分である。

参考文献