本日(註)《ガイーヌ》の2曲目に演奏する〈バラの娘たちの踊り〉では、チューバフォン (tubaphone) という聞き慣れない名前の打楽器が活躍する。チューバフォンは鉄琴(グロッケンシュピール)に似ているが、鉄琴が金属製の音板から構成されるのに対し、チューバフォンは音板の代わりに金属製の管 (tube) から構成され、楽器分類学上はチューブラーベル(いわゆる“『NHKのど自慢』の鐘”)と同じグループに属する。 本演奏会で使用する楽器は直径 2 cm 程度、長さ 20–40 cm 程度の管から構成されており、グロッケンシュピールよりもやや大ぶりな楽器である。「スプーン状の木製のマレットで演奏する」と記す文献もあるが [1]、本演奏会ではグロッケンシュピール用の真鍮製マレットで演奏する。
奏法上は、グロッケンシュピールよりも音の減衰が早いため、スタッカートに聞こえやすく、連続して叩いても歯切れ良く聞こえる点が特徴的である。この点が〈バラの娘たちの踊り〉の曲想とよく調和している。
現代のオーケストラでは、事実上《ガイーヌ》専用の楽器と見なされているチューバフォンであるが、ハチャトゥリアンが発明した楽器ではなく、その歴史は彼が生まれる15年前の1888年に遡る。同年、米国のDeagan社によって特許登録されたパイプラフォン (pipelaphone) という楽器がチューバフォンの前身である。翌1889年には同じ発明者により、2オクターブ・2オクターブ半・3オクターブの3種類の音域の楽器がチューバフォンとして特許登録された。その後、第1次世界大戦頃までは、主に英国式の軍楽隊でシロフォン同様に独奏楽器としてよく使われており [2]、各社から模造品が制作されることもあったという [3]。なお、チューバフォンがさほど一般的でなくなった1970年代においては、ハチャトゥリアンは代替としてヴィヴラフォンを使うことを勧めていたとの記述もある [2]。
本演奏会(註)では、《仮面舞踏会》の3曲目の〈マズルカ〉と《ガイーヌ》の4曲目の〈子守歌〉でグロッケンシュピールが登場し、ショスタコーヴィチの交響曲第5番の第1, 3楽章ではグロッケンシュピールに加えてチェレスタも活躍する。3種類の金属製鍵盤打楽器の音色の違いをお楽しみいただければ幸いである。
註:本稿はOrchestra Est 第6回演奏会における曲目解説の一部として執筆された。